おわら風の盆(富山県富山市八尾町)

コロナ禍で中止になっていた、おわら風の盆(盆踊り)が4年ぶりに本格開催となりました。おわらは9月1〜3日、二百十日の風封じと五穀豊穣を願い、住民が三日三晩にわたって唄や踊りを繰り広げる伝統行事として八尾町中心部の11町内で開かれます。この日ばかりは、静かな富山が、いつもと違い全国から20万人程の人が集まり、駅や空港は人で溢れかえるほどです。ちなみに富山県の人口は100万人ちょっとです。

八尾は歴史ある町で石畳の坂道もあり、夜になるとやわらかく灯るぼんぼりの下、おわらの期間は哀愁漂う胡弓の音が響き伸びやかな唄と流れるような美しい踊りで幻想的な雰囲気に包まれます。観光客が少なくなった後も夜通し踊られるため、ゆったりとした時間が流れます。

男女共に深くかぶった編み笠と、力強い躍動感あふれる「男踊り」と、流れるようなしなやかな艶やかさをもつ「女踊り」の踊り手。唄や胡弓演奏の地方(じかた)衆は、伝統伝承として後継者不足で苦労されているようです。特に踊り手は原則、男女ともに25歳に区切られています。「結婚しなさい」の見えないプレッシャーが、ここにもあるように思います。

おわらの歴史を辿ると当初は唄だけだったものが、そのうち楽器が入り、芸者さんの踊りが加わりました。芸者さんの「宙返り」や「稲刈り」は難しい踊りでしたが、今は誰もが踊れる「豊年踊り」に変わりました。唄は恋愛と言いつつも下品な歌詞が含まれており小杉放庵(画家・歌人)が「これではおわらは廃れる」として八尾の春夏秋冬を取り入れた「八尾四季」を作りました。
また、おわらの時期は、長野県や群馬県の製糸工場に出稼ぎで働いている女性たちが戻り、八尾で一番女性の人口が多い月になっていました。おわらは女性中心だったことが伺われます。その変遷をたどって多くの人に愛されるおわら風の盆になりました。
長野県や群馬県の製糸工場に出稼ぎに行っている女性が帰ってくる時期で、女性の人口が機会あれば、ぜひ哀調の音色と情感あふれる踊りに包まれる3日間を、お楽しみいただければと思います。

※この記事は、学会、フェミニストカウンセラー協会、フェミニストカウンセリング・アドヴォケイタ―協会が持ち回りで投稿しています。