経口人工妊娠中絶薬は承認されたけれど…
昨年の4月に経口の人工妊娠中絶薬であるメフィーゴパックが承認された。これは妊娠9週0日までに使用できる薬で、はじめに1剤目(ミフェプリストン)を1錠内服、その後36~48時間後に2剤目(ミソプロストール)を奥歯と頬の間においた後に飲み込むという方法で、2剤目の後24時間以内の中絶を起こすのを目的としている。国内の治験では約93%が24時間以内に中絶に至った。
これまで日本では、人工妊娠中絶も流産手術も、医療機関で掻爬による中絶が中心だったが、最近は吸引法による手術も増えてきている。吸引法は掻爬術に比べ子宮の筋肉に対する損傷が少なく、より安全な方法だ。それでも、経口薬が承認されている諸外国に比べて掻爬が多い状況は「危険が大きい」とか場合によっては「野蛮な方法だ」といわれ、薬剤の承認を待っている声が大きくなってきていた。では、経口薬ではどのような経過をとるのか。
現時点でのメフィーゴパックの具体的な使われ方は以下のようになる。
・母体保護法指定医師の確認のもとで投与する。
・入院可能な医療機関(病院または有床診療所)で使用する。
・2剤目内服後は、子宮内容物(胎嚢)が排出されるまで、入院もしくは院内待機が必要。
厚生労働省はこのように規定しているが、これをどう捉えるかは人それぞれだろう。少なくとも「処方箋を貰って薬局で受け取り、そのまま自宅(院外)で薬を飲んで中絶を終了させる」と言う流れにはなかなかならないのではないかと思う。そのようになるべきだと考える人もいることは承知しているが。
処方薬にならない理由のひとつは医療機関の収入の問題だ。メフィーゴパックの薬価は千円にもならないため、今中絶手術で得ている収入に比べると全く問題ならないくらい安くなってしまうので、入院や院内待機を含めて中絶費用としている。この理由についてだけを考えると、医療機関の利益だけを考えていると批判も多くなるのはもっともなことだと思う。そもそも、中絶手術が自由診療(健康保険外の医療)であり、これを主な収入としている医療機関が多くあるということが問題なのだが。
それでも、今の時点では、医療機関で誰かが立ち会うことは、私は良いと思っている。知っておいて欲しいのは、子宮の内容物が出てくる時には、相当の痛み(痛み止めを使うことはもちろんできる)と人によっては今まで経験したことのない多量の出血が伴うことがありうるということ。出血に関しては本人がびっくりしてしまうこともあるだろう。
もしかしたら極端なことを想定しているのかもしれないけれど、私は自宅で1人で中絶をするということはしてほしくない。中絶という体にも心にもタフな選択に誰かが寄り添って欲しいと思う。信頼できるパートナーや友人であればよりいいけれど、そうでなくても医療従事者でも寄り添えるはず。誰か自分の状況を理解してくれる人に寄り添ってもらうことがなければどんなに心細いことだろう。
言うまでもなく人工妊娠中絶が安全に行われることは、Reproductive health and rightsにとって必須のことだ。そして選択肢が増えることはいいことではある。しかし、日本の性教育の現状や中絶を選択せざるを得ない女性たちの置かれている状況を考えると、もしかして孤独な中絶経験が増えたらどうしようと心配でならない。
私の杞憂に終わればいいが。
皆さんはどう考えますか?
※この記事は、学会、フェミニストカウンセラー協会、フェミニストカウンセリング・アドヴォケイタ―協会が持ち回りで投稿しています。