知見を得るということ

「スター・ウォーズ」という映画が好きで、シリーズのほとんどを映画館で観た。1970年代後半から始まったシリーズ、面白くてはまった。2018年ころに観たのが最後だったかと思うが、そのときに違和感を持った。デススターや宇宙船をガンガン破壊して、砕け散った物たちは宇宙のどこに行くのだろうか。もはや宇宙ゴミを出しまくるナンセンスな物語と化してしまった。「宇宙ゴミ」という知を獲得した私には、「スター・ウォーズ」はスペースオペラではなくなった。たぶん知見を得るという営みはそういうことなのだと思う。

とある県の知事が今、元県民局長からの告発内容とその対応にかかわり県議会から追究を受けている。
告発内容は、知事による複数の県職員へのパワーハラスメントをはじめ、地元企業や自治体での物品の「おねだり」、優勝パレード費用を不正に集めた等というものだ。元県民局長は3月に告発文を報道機関に送付(4月にはいり県の公益通報窓口に提出)。報道機関への告発文を把握した知事は、県幹部と文書を共有し、作成者を特定。懲戒処分の調査権と懲戒権を持つ人事課が元県民局長に事情聴取を開始。「核心的な部分が事実ではない」として誹謗中傷と認定。元県民局長の定年退職を取り消し、役職を解任し「嘘八百、事実無根の内容、公務員としてあるまじき行為」として、停職3カ月の懲戒処分とした。
当初の内部調査は利害関係人によって行われており、中立性に欠くとして県議会の百条委員会がひらかれることになった。百条委員会での証人尋問直前に元県民局長は自死を選択した。その後、嘘八百ではない事実が次々と明るみになってきている。
県職員を対象に行ったアンケートの中間報告では、知事のパワーハラスメントについて「目撃などにより実際に知っている」59人(1.3%)「目撃などにより実際に知っている人から聞いた」466人(10.2%)「人づてに聞いた」1225人(26.8%)「知らない」2818人(61.7%)という結果が公表されている。「目撃などにより実際に知っている人から聞いた」の内容には「県庁内で気をつけておかなければならないこととして引継ぎされていた」という報道もあった。パワーハラスメントの具体例については、机をたたいて怒り出す、機嫌が悪いとものを投げる、車の後部座席から座席をける、舌打ちをする、ため息をつくなどがあったと報告されている。
告発内容だけでなく、公益通報者保護が為されていない問題も指摘されている。公益通報者保護法によると通報先は行政機関、報道機関などとされており、報道機関に対しては通報対象事実の発生・被害の拡大を防止するために必要であると認められる者とされている。元県民局長は、県の公益通報の窓口での通報よりも先に報道機関に文書を送ったことについて報道機関に送付した書面には「本来なら保護権益が働く公益通報制度を活用すればよかったのですが、自浄作用が期待できない今の県では当局内部にある機関は信用出来ません」と明記されていた。
パワーハラスメント(知事の表現では「言い方が厳しい」「必要な指導」)が常態化し、それらを知事のコミュニケーション力のなさと表現した側近の存在こそが「自浄能力は期待できない」と元県民局長に言わしめた現実(リアル)と推察する。そもそも、知事と県職員の間には圧倒的な力関係の差が存在している。コミュニケーション力のなさ一般で片付けられるものではない。権力を持っていることへの無自覚さは、指導という名の権力の乱用に連なると言わざるを得ない。
パワーハラスメントが常態化する組織は就業環境を悪化させる。次なるハラスメントの温床となりやすく、健康への悪影響も懸念される。元県民局長の自死を悼むとともに告発者、被害者を孤立させないケアの体制も整える必要がある。

知事と県職員の関係にはパワーの差が存在し、権力者は権力を乱用できてしまうという知を得てほしい。そうすることで、県職員の立ち位置から情景が浮かび上がってくると思うからだ。「宇宙ゴミ」を知り、「スター・ウォーズ」をスペースオペラではなく、環境問題として把握できたように。

さいごに。百条委員会での究明が進み、知事はじめその側近への事実に基づく責任追及と、故元県民局長の名誉回復を心から願っている。

※この記事は、学会、フェミニストカウンセラー協会、フェミニストカウンセリング・アドヴォケイタ―協会が持ち回りで投稿しています。